部屋の隅に立てかけたギター。買ったときはあんなにワクワクしたのに、今はうっすらホコリをかぶっている——もし今、少しドキッとしたなら、この記事はあなたのために書きました。
「三日坊主な自分が情けない」「やっぱり自分には音楽の才能がなかったんだ」。そう思って、そっとギターケースを閉じてしまう人の話を、僕はこれまで何度も聞いてきました。でも、断言します。あなたが弾けなくなった理由は、根性でも才能でもありません。
やめてしまったのは、あなたが弱いからではなく、続かない練習をしていたからです。
ギター挫折率は9割。でも「9割が失格」ではありません
よく言われるのが、「ギターを買った人の9割が1年以内にやめる」という数字です。僕自身の肌感覚でも、そう遠くないと感じます。そして挫折が集中するのが、始めてから3ヶ月前後。上達を実感しやすい時期であると同時に、「思っていたより難しい」「忙しくて触らなくなった」が重なる、いちばん危ない時期です。
ここで多くの人が誤解します。「9割が脱落するなら、続いた1割は特別な才能がある人だ」と。
違います。僕自身も、最初にギターを買ってしばらくは、まったく音が出せませんでした。指は痛いし、コード(複数の弦を同時に押さえて鳴らす、和音のこと)はきれいに鳴らないし、YouTubeのお手本はまるで別世界。当時の僕は完全に「才能がない側の人間」でした。それでも今こうしてギターを弾き続けられているのは、途中で練習のやり方そのものを変えたからにすぎません。
続く人と続かない人を分けているのは、意志の強さではなく「最初の3ヶ月の練習方法」です。
ギターが続かなくなる3つの原因
これまで見聞きしてきた挫折には、驚くほど共通するパターンがあります。大きく3つです。
原因①:いきなり「Fコード」という壁に正面衝突している
初心者向けの教本を開くと、数ページ先にはもう「Fコード」が登場します。これは、人差し指1本を横に寝かせて6本の弦をまとめて押さえる、いわゆる「指1本で全部の弦を押さえる」形です。ギター用語では「バレーコード」と呼びますが、名前は覚えなくて構いません。とにかく指が痛くて、音が詰まって鳴らない、あれのことです。
僕自身も、ここで完全に心が折れました。「Fが押さえられないから次に進めない」と思い込み、しばらくギターに触りませんでした。対策は後述に。
原因②:練習の目的が「上達」になっている
「今日は30分練習して、昨日より上手くなろう」。まじめな人ほどこう考えます。ところがこれ、実は続かない考え方です。
上達は毎日は実感できません。1週間まったく変化がない日もある。「上達」をごほうびにしてしまうと、ごほうびがもらえない日が9割になります。もらえない日が続けば、人は行動をやめます。ごく自然な反応です。
伸びる方ほど「今日は好きな曲の、いちばん盛り上がるところだけ弾けて楽しかった」と言います。上達ではなく、その日の楽しさを回収している人が残るのです。
以前、40代で始めた友人がいました。最初の1ヶ月は毎回「まだ全然ダメですね」と苦笑いしていたのですが、ある日から急に表情が変わりました。何が変わったのか聞くと、「上手くなろうとするのをやめて、娘が好きな曲の出だしの数秒だけ弾けるようにした」と。結果として、その方は3年たった今も続いています。目標を下げたことで、続く力を手に入れたわけです。
毎日もらえないごほうびを設定した時点で、挫折は決まっています。
原因③:ギターが「手の届かない場所」にある
ケースに入れて、クローゼットにしまう。丁寧で正しい保管方法です。でも初心者にとっては致命的でした。
ギターを弾くまでに、クローゼットを開ける→ケースを出す→ファスナーを開ける→弦の音の高さを合わせ直す(チューニング)、という4つの手間が挟まる。このわずかな面倒くささが、毎日あなたの意欲を静かに削ります。逆に、最近は「楽器を部屋に飾るように置く」というインテリアの流れが定着しつつありますが、これは理にかなっています。目に入る場所にあるだけで、手に取る回数は明らかに増えます。
続かない原因の何割かは、あなたの心ではなく、部屋の物の置き方にあります。
3ヶ月の壁を越えるための考え方
では、どう練習すればいいのか。僕が大切にしている3つです。
弾きたい曲から逆算して覚える
最近の音楽レッスンは、基礎練習をひたすら積み上げる方式から、弾きたい曲に出てくる技を、その曲の中で必要になったときに覚えるやり方へ移ってきています。これは初心者にとって、とてもいい流れです。
好きな曲を1曲決め、その曲に出てくる押さえ方だけを練習する。出てこない押さえ方は、今は覚えなくていい。ゴールが見えている練習は、同じ内容でもまったく苦になりません。
Fコードの「対策方法」
Fが出てきたら、まずは細い側の弦4本だけを押さえる、やさしい形で代用してください。指1本で全部の弦を押さえる必要はありません。これでも曲としてはちゃんと成立します。1曲を通して弾けるようになってから、改めて本来のFに戻ればいいのです。
順番を入れ替えていい権利は、教本ではなくあなたが持っています。
1日5分を、上限にする
「30分やる」ではなく「5分でやめる」と決めてください。物足りないくらいがちょうどいい。物足りなさは、明日ギターを手に取る理由になります。逆に、気合いを入れた90分は、翌日の疲労と罪悪感を生みます。
続けている人の多くは、練習時間が短い人です。短さは手抜きではなく、継続のための技術です。
月に1回、スマホで録音する
上達が実感できないのは、比べる相手がいつも「昨日の自分」だからです。昨日の自分と今日の自分は、ほとんど変わりません。当たり前です。
そこでおすすめしているのが、月に1回だけスマホで30秒録音しておくこと。3ヶ月後に聴き返すと、自分でもびっくりします。次の押さえ方に移るときの「あっ、待って」という空白が短くなっていたり、音がかすれなくなっていたり。変化は毎日見ると見えず、まとめて見ると必ず見えます。
僕自身も、初心者のころの録音がまだ残っています。ひどいものですが、あれがあるおかげで「自分は何も進んでいない」という嘘に騙されずに済みました。
今日からできる3つのアクション
最後に、この記事を閉じたあと5分でできることだけ挙げます。
- ギターをケースから出して、座る場所の横に立てかける。スタンドがなければ壁に立てかけるだけでも構いません。まずは「手を伸ばせば届く」状態を作ります。
- 弾きたい曲を1曲だけ決めて、押さえ方を調べる。検索窓に「曲名 コード」と入れれば、指をどこに置くかの図が出てきます。上手い下手は関係ありません。今日は図を眺めるだけで十分です。
- タイマーを5分にセットして、押さえ方を1つだけ鳴らしてみる。きれいに鳴らなくても大丈夫です。5分たったら、必ずやめてください。
3ヶ月の壁は、才能で越えるものではありません。越えるのではなく、壁の高さを自分で下げてしまえばいいのです。
ホコリをかぶったギターは、失敗の証拠ではありません。あなたが一度、音楽に手を伸ばしたという証拠です。もう一度、今日5分だけ触ってみませんか。

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