SNSの上手い人と比べて凹むあなたへ
スマホを開けば、素敵な弾き語りの動画や、指がなめらかに動く演奏の様子が次々に流れてきます。それを見たあと、自分のギターを手に取ると、なんだか急にやる気がしぼんでしまう。「自分は全然向いていないのかもしれない」と、静かに落ち込んでしまう。そんな夜を過ごしたことはありませんか。
僕自身、長年ギターを弾き続けてきましたが、ここ数年、ギター仲間との雑談でいちばんよく出てくる悩みが、まさにこの「比べて凹む」という気持ちです。動画で気軽に演奏を発信する人が増えたぶん、初心者が目にする「うまい人」の数も、以前とは比べものにならないほど増えました。それ自体はとても素敵なことなのですが、同時に、比べる機会も一気に増えてしまったのです。
「比べて凹む」の正体は、才能の差ではありません
まず、はっきりお伝えしたいことがあります。あなたが動画の中の人より下手に見えるのは、才能の差ではなく、見えているものが違うだけです。 画面に映る演奏は、その人が何百時間も練習してきた結果の、いちばんうまくいった瞬間の切り取りです。一方であなたが今見ているのは、練習を始めたばかりの自分の、うまくいっていない今この瞬間です。この2つを並べて比べること自体に、そもそも無理があります。
僕自身、ギターを始めたばかりの頃、雑誌やテレビで見るミュージシャンの演奏を見ては「自分にはとても無理だ」と落ち込んでいた時期がありました。今振り返ると、当時の僕が見ていたのは、その人が何年もかけて積み上げてきた結果であって、その人の「最初の1年目」の姿ではなかったのです。比べる対象そのものが、そもそもフェアではなかったわけです。
ギター仲間の30代の知人も、同じような悩みを話してくれたことがあります。動画でお気に入りの弾き語り配信を見るのが日課だったそうですが、見れば見るほど、自分の演奏が下手に思えて、だんだんギターを持つのがつらくなってしまったそうです。そこで一緒に試してみたのが、「動画を見るのをやめること」ではなく、「自分の1週間前の演奏を録音して、それと今日の演奏だけを比べてみること」でした。すると、「思ったより指が動くようになっていて驚いた」と、少しずつ表情が明るくなっていったのを覚えています。比べる相手を変えるだけで、同じ練習量でも感じ方はまったく違うものになるのです。
大人になってから楽器を始める理由として、最近増えているのが「うまくなること」よりも「心を整える時間がほしい」という声です。忙しい毎日の中で、誰かと比較されず、自分のペースで音を出せる時間そのものに価値がある、という考え方です。上達のスピードを競う必要は、本当はどこにもありません。 それなのに、動画をきっかけに、いつのまにか競争の土俵に自分から上がってしまっている人がとても多いのです。
なぜ「比べて凹む」が起きてしまうのか、3つの原因
原因1:見えている情報が「結果」だけになっている
動画で流れてくるのは、練習の失敗した部分や、指が思うように動かなかった瞬間ではなく、いちばんうまくいった数十秒だけです。その「結果だけ」を何十本、何百本と見続けていると、まるで最初からうまく弾ける人ばかりのように錯覚してしまいます。実際には、その裏に地道な練習時間が積み重なっているのですが、そこは画面には映りません。
原因2:「上達のものさし」が他人になっている
本来、上達を測るものさしは「1ヶ月前の自分」であるべきです。ところが、動画を見る習慣があると、ものさしがいつの間にか「今すぐ動画の中の人」にすり替わってしまいます。他人という、自分ではコントロールできない基準で自分を測り続ければ、落ち込むのは当然のことです。
原因3:練習時間そのものより、比較する時間の方が長くなっている
皮肉なことに、上手い人の動画を眺めている時間の方が、実際に自分がギターを手に取って練習している時間よりも長くなってしまうことがあります。見ているだけの時間は、あなたの指を1ミリも動かしてくれません。 比較に使うエネルギーを、少しでも自分の練習に振り向けられれば、状況は大きく変わります。
比べる気持ちとの付き合い方
ここまでの原因を踏まえると、大切なのは「比べないようにしよう」と我慢することではなく、比べ方そのものを変えることだと分かります。人と比べる気持ちを完全になくすのは難しいものです。ですから、比べる相手を変えてしまうという方法をおすすめしています。
具体的には、「今日の自分」と「1ヶ月前の自分」だけを比べるようにすることです。1ヶ月前は鳴らせなかった音が、今はスムーズに鳴らせるようになっている。次の押さえ方に指を移すのに時間がかかっていたのが、少し速くなっている。そうした小さな変化は、他人の動画とは違って、自分だけの確かな成長の証拠です。成長は、他人との差ではなく、過去の自分との差でしか測れません。 この視点を持つだけで、同じ動画を見ても受け取り方が変わってきます。
また、動画を見る時間そのものに制限を設けるのも効果的です。練習の前にだけ「上手い人の演奏をひとつだけ見て、参考にしたいところをメモする」というように、目的を持って見る時間に変えてしまうと、比較のための時間ではなく、学びのための時間に変わります。僕自身、「見るのは練習の前に1本だけ」というルールを決めてから、気持ちがずいぶん楽になりました。
さらに、自分の演奏を定期的にスマホで録音・録画しておくこともおすすめです。他人と比べるための道具だったスマホを、自分の成長を記録するための道具に変えてしまうのです。数週間前の自分の演奏を聴き返すと、驚くほど変化していることに気づくはずです。
もうひとつ大切にしてほしいのが、「なぜ自分はギターを始めたのか」を、時々思い出すことです。多くの方は、誰かに勝つためでも、誰かに認められるためでもなく、好きな曲を弾いてみたかったから、あるいは日々の忙しさから離れて心を整える時間がほしかったから、という理由でギターを手に取ったはずです。動画の中の上手な人と自分を比べているとき、僕たちはいつのまにか、その最初の気持ちを置き去りにしてしまっています。上達の先にあるゴールは、誰かより上手くなることではなく、あなた自身が心地よく音を鳴らせるようになることです。 ときどきこの原点に立ち返るだけで、比較にすり減っていた気持ちが、ふっと軽くなることがあります。
今日からできる、具体的な3つのアクション
1つ目は、今日の練習を、スマホで30秒だけ録音してみることです。 うまく弾けなくても構いません。これが「今日のあなた」の記録になります。
2つ目は、上手い人の動画を見るタイミングを、練習の前の1本だけに決めることです。 だらだらと何本も見続けるのではなく、目的を持って見ることで、比較の道具から学びの道具に変わります。
3つ目は、1ヶ月前に録音した自分の演奏があれば、それを聴き返してみることです。 もしまだ録音していなければ、今日からその習慣を始めてみてください。1ヶ月後、あなたはきっと今日の自分の演奏を聴いて、驚くはずです。
比べる相手を、画面の向こうの誰かから、少し前の自分に変えるだけで、ギターとの向き合い方は大きく変わります。あなたのペースで鳴らす音には、他の誰にも真似できない価値があります。 今日の練習は、誰かと競うためではなく、昨日の自分より少しだけ前に進むために、始めてみませんか。

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